『金の亡者たち』で描かれているのはどうしようもない人間の実情だ(ネタバレあり)

皆様こんにちは、takahiroです。

 

昨日、2019年に公開された韓国映画、『金の亡者たち』を観ました。

 

証券会社で働くブローカー(売買注文を取り次ぐ仕事)を主人公としたサスペンスで、時間にして115分の作品ですが、なかなか考えさせられることが多かったので感想・ネタバレも含めて書いていきます。

 

 

『金の亡者たち』とは?

はじめに、作品のあらすじを紹介します。

韓国最大の金融街である漢江・汝矣島(ヨイド)で最大手とされるDM証券に入社したイルヒョンは、名門大学を出た同僚たちに先を越され、焦っていた。ある日彼は、上司を介してボノピョという謎めいたブローカーと出会う。ボノピョの指示に従って違法取引を始めたイルヒョンは、瞬く間に巨額の報酬をつかみ、金にものをいわせて派手に過ごすが、金融監督官のハンはイルヒョンの取引に不審なものを感じていた。

 

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ご覧いただくと分かるかと思いますが、冴えない主人公がカリスマ的な悪人と出会い、法を犯しながらも手柄を挙げ成功者に上りつめていくが・・・というお話です。

 

 

夢見る凡人の絶望感と虚無感

主人公のイルヒョンは、両親が田舎でいちご農家を営んでいるごくごく普通の家庭で育ちましたが、『金持ちになりたい!』という夢を持ち、希望に胸を膨らませながら証券会社に就職し働き始めます。

 

しかし、そこで待ち受けていたのはまさに『金を稼げないヤツに価値はない』という世界。

 

証券会社のブローカーは顧客の手数料が自分の売り上げ(手柄)となりますが、主人公は稼げないどころかミスをして損失まで出してしまう始末(社内のチームの賞与から補填する形となり、自分だけでなく周囲にまで迷惑をかける)。

 

自分なりに必死にくらいつき頑張っているつもりだけど、結果が出ることなく悶々とした日々を過ごしています。

 

反面、会社社長の御曹司で同僚のウソンは、イケメンで性格も爽やかで嫌みのない好青年でありながら、着実に結果を出しており周囲からの評価も高い人物。

 

まさに、主人公が持ってないものを全て持っているような存在で、主人公も口には出さないものの羨望と多少の嫉妬を抱えています。

 

ここで描かれているのは、才能の無い人間の苦しみと、しかしこれが現実であるということです。

 

数字によって自分の仕事ぶりが評価される世界に、言い訳や過程は関係なく、ただただ「稼げたか稼げてないか」という事実があるだけです。

 

主人公は夢と希望を持って投資の世界に飛びこんだものの、結果は全く出せずうだつの上がらない自分の現状をこれでもかと見せつけられます。

 

おそらく実際に投資に関わる人間も、こんな風に成功への希望を持って世界へ参入してくるのでしょうが、ここに存在するのは勝者か敗者のみ。

 

大半の人々は敗者のまま世界から退場していくことになるというのが、観ているととてもよく分かるので痛々しいです。

 

 

身の丈に合わないことをしても、心は幸せになれない

そんな主人公も、職場の上司に紹介されたボノピョの指示通り動くことで、これまでとは一転し次々と売上を出して成功への道を歩んでいきます。

 

最初は気弱で自信の無かった若者が、結果を出しお金を得て周囲からも評価されることで、「俺はスゴいんだ!」と自信をつけ洋服、アクセサリー、車、住居と身の回りのものを次々とグレードアップ、果ては付き合っていた大切な彼女を捨て職場の美人な同僚と付き合うことに。

 

見ているこっちが呆れるくらいの変わりっぷりを発揮し幸せの絶頂に至りますが、徐々にきな臭い状況になっていきます。

 

同じ業界で働く人が次々と亡くなり、自分にボノピョを紹介した上司も事故で脳を損傷し昏睡状態となるのです。

 

これは紛れもなくボノピョの仕業で、主人公は「自分も彼を裏切ったり用済みとなれば同じ道を辿ることになる・・・」と、ここに来てようやく気付きます。

 

しかし、既にどっぷりと『あちら側』に身を沈めてしまっている主人公は、誰にもそのことを言えず極度のストレス状態に。

 

そんな彼を心配するイケメン同僚のウソンに「金持ちの坊ちゃんが!」と当たり散らし、母親には「金は送ってるんだからこんな貧乏暮らしするな!」と言い放つ。

 

自分は大金を稼いで成功したはずなのに、幸せとは程遠い。

 

ここから分かることは、結局のところ自分の身の丈に合わないことをしても、いつか必ずそのツケは回ってくるということです。

 

才能もコネもない気弱な凡人が、法を犯し成功を手に入れ金持ちになったとしても、根本的な自分という人間を変えることはできません。

 

成功というのは自分が死ぬほど努力をして掴み取ってこそ意味があり身に付くもので、そうではない外道を歩めば待っているのは身の破滅なのです。

 

 

自分を見つめ直すキッカケとなる映画

最終的に主人公はボノピョを出し抜くことに成功しますが、決して無傷で無くまさしく生きるか死ぬかのギリギリの状態となったところで、物語は幕を閉じます。

 

どれだけ富や名声を得ていい気分になれても、それは永遠と続くわけではなく、ましてや自分の実力ではなく犯罪によって得たものは、所詮ハリボテでいつかは全て剥がれて失う時が訪れる。

 

現実でも、投資に限らずどの世界(業界)にも夢を叶えてやる!という人はたくさんいると思いますが、そういう人達にこの映画が訴えかけるのは、

 

『金しか見えなくなった者に待っているのは、ハッピーエンドではない』

 

ということだと僕は思います。

 

作品のキャッチコピーは、「命より、金だろ?」

これは今の世の中においてどうしようもないくらい現実に即しているのかもしれませんが、果たして本当にそうでしょうか?

 

成功の2文字に取り憑かれて疲れてしまったら、ぜひこの映画を観ることをオススメします。